19.食料安全保障条約
FOOD
SECURITY TREATY
前文:現行の政策と批判
1.食料の安全保障(以下食料安保と略す)とは、個人、世帯(家族)、地域、あるいは国家が、一日または一年ごとのペースで食料(栄養)の需要を十分に満たすことのできる手段を持つことである。これには、飢餓と慢性的な栄養失調からの解放も含まれる。食料安保とは食料が地域内で生産、加工、貯蔵、流通されると同時に、気候・風土そのほかの差異に関係なく、継続的に食料が確保されている場合にのみ完全に保証されるものである。
2.近年における食料生産量の実質的な増加にもかかわらず、食料安保の状況はますます不安定になってきている。FAO〔国連食料農業機関〕が最近行った見積りによると、世界の発展途上国の農山漁村において、飢餓に関連する問題が原因で死亡した者の総数は1990年で1500万人であり、同じ地域では凡そ5億人が、慢性的な栄養不足の状態となっている。矛盾しているのは、食料生産が劇的に増加した事実にもかかわらず、この様な事態が起きていることである。
3.現在、世界の食料供給の不安定さは、世界的な食料生産の問題ではなく、むしろ、〔土地、資金、情報、奨励措置などの〕資源の配分と利用が非民主的かつ不公平に行われていることに起因している。この結果、特定の地域と、ますます少数になってきている集約的生産者の手中に生産が集中し、その他の地域や小規模農家、地域的な食料安保の状況は悪化している。
4.飢餓は社会的、政治的な崩壊、不作や生態系への災害によっても起こりえるが、その主原因は慢性的な貧困の犠牲者たちが食料を購入する資金も持たず、食料生産に必要な資金を管理することもできないような決定的な貧困である。
5.食料安保の問題は、二つの関係から取り上げられてきた。地域の自立と貿易政策である。世界銀行、IMF(国際通貨基金)その他の二国間、多国間機関によって促進されている貿易関連政策によっては食料不安の問題を解決するのではなく、むしろ悪化させている。
6.現在の主流である輸出主導型開発戦略は、数多くの問題を引き起こしてきた。これらの問題の一例を上げると、
たった4社の多国籍企業が世界の穀物貿易の90%を管理していること、
発展途上国が、市場価格の暴落によって大きく影響されるほどに輸出用食用農産物に依存していること、
国内消費用の食料生産を犠牲にし、広範囲に渡り換金作物を生産していること、
などがある。多くの発展途上国の負担となっている現在の対外債務は、これらの国の食料安保を実現するための障害となっている。
7.食料の輸入への依存もまた、以下のような数多くの困難を引き起こしてきた。債務の増加と国際収支問題の悪化、発展途上国に対する国際市場価格の変動と、それによる途上国の自国の輸入能力の大きな落ち込み、食料の輸送におけるエネルギー消費量の増加、食料の輸入と食料援助への依存の問題は、政治的な条件による制約、輸送メカニズムの機能の故障や停止という脆弱さ、食料価格の低下を原因とする国内生産者の動機の減少、国内の伝統的な食料と変化してしまった消費形態との競合、などを含む。さらに、食料輸入国は、干魃と政治不安に対する脆弱さに直面し、食料の品質に対してコントロールできる力が少ない。その食料は、長距離輸送の間も保存できるようにますます多くの薬品を必要とする状況にある。
食料安全保障の原則
私達は以下に同意する。
8.食料安保は基本的人権である。あらゆる人間は、安全で質の高い食料の確保を保証されるべきである。人々が自分のために食料を得る権利を保証するために、食料安保は、できるかぎりの地域的食料自給に基づくべきである。食料安保は地域(国内)の食料の生産、輸送、消費を第一に優先すると同時に、食料輸入は地元の生産による供給で補足できるという認識の下に、食料輸入をできるかぎり削減する場合にのみ、確保できる。
9.食料安保の実現は、永続可能な開発にとって不可欠である。人々は、永続可能な自給を尊重する権利を有する。国家および国際レベルの貿易政策はこの権利を損ねるものであってはならない。
10.
食料に関する権利は、食料の数量、質、アクセスなどの物質的な側面だけでなく、食料の文化的側面も含まれる。食料の生産と消費の形態は、地域と社会の環境、文化、政治、社会面の多様性を反映するものであり、尊重され、促進されるべきものである。しかし、健康的でない食料消費形態は、阻止されるべきである。それぞれの地域社会は、健康的であるか、不健全であるかについて、独自に決定すべきである。
11.
土地の所有権とその利用、およびアクセスの公平で民主的な形態は、永続可能な食料システムと食料安保の成立にとって不可欠である。
12.
永続可能な農業と種の多様性の原則を適用するにあたっては、食料安保にとって決定的な要素である健全な資源の状態を保たねばならない。
13.
農地改革、地域社会の組織化、開発活動、事業の分野における民衆型のイニシアチブを強化することによって、最終的には地域社会が食料に関連する決定と戦略、経済的持続性をコントロールできるようになるための強固な基盤を築くことができる。
14.
女性は、しばしば食料生産において決定的な役割を果たしており、食料と種子の貯蔵の責任を負っていることが多い。さらに女性は、栄養、健康管理、収入源の確保のプロセスにおいて、一般的に社会と家族の文化的なきずなを提供している。
15.
農業システムの生態学的、経済的、社会的側面に対する十分な理解は、永続可能な農業と食料安保の前提条件である。食料安保と永続可能な農業の原則の下で教育され、十分に訓練された食料の生産者と消費者の存在は不可欠な条件である。
16.
食料安保を保証することは、各国政府が追求すべき基本的かつ適切な農業政策である。過剰生産を助長する農業補助金と地域レベルの自給量を増加させるために使用される農業補助金との間には、重要な違いが存在するため、輸入数量制限は、それが過剰生産とダンピング輸出を停止する効果的な政策と連結しているかぎり、食料安保を向上するための適切な措置である。
17.
食料安保を保証するために、消費者と生産者の間の地理的な距離はできるかぎり狭められなければならない。消費者と生産者の間の相互理解による密接な関係もまた不可欠である。
18.
食料安保の状態が潜在的に最も不十分な者たちに対して特別の注意が払われなくてはならない。この様な人々には、先住民、難民、移転させられた者たち、失業者、心身障害者、および少数派グループの人々が含まれる。
19.
伝統的な農業者は、食料安保の原則について本質的な知識を持っていることが多く、これらの知識は永続可能な生産システムに適用できる。
20.
食料安保の原則に関する情報と知識、資金や資料、経験を交換する機会は、この分野で活動している者たちの能力を向上させるために不可欠な要素になる。
21.
あらゆる農業における環境および社会的コストを内部化することにより、永続可能な農業から農民が公正な収入を得ることは食料安保にとって不可欠である。
食料安全保障行動計画
私達は以下に同意する。
22.
食料安保を、地方自治体、国家政府、政府間機関、NGO、コミュニティー・グループの農業・食料政策の中心的目標にすることを主張する。
23.
地域内の食料の取引を一次産品と加工食品の両方の形で行なうことを奨励し、各国内の食料生産の多様化を増進し、地域的な食料安保を向上する。
24.
自分自身のコミュニティー内で、生産者と消費者の距離をできるかぎり縮めるためのメカニズムを助長するために活動する。
25.
自分自身のコミュニティー内で、小規模で家族経営の農家の自立を促し、生産物と生産活動の多様性を確保するために活動する。
26.
コミュニティー自身の食料と種子の緊急時用備蓄を確立しておくこと。
27.
土地所有権と土地保有制度が民主的で公正となるよう積極的に促進する。これには、水利権はもとより、土地の利用、アクセス、所有権、および食料に関連する決定と戦略に対してコミュニティーが管理できることも含む。
28.
国家政府と地方自治体の省庁・機関、政府間機関、NGOが、女性の役割を農業開発その他の活動の中心となるように統合すること、また、土地、金融、適性技術、教育へのアクセスを女性に保証することにより、女性の能力を高めることを優先するように主張する。
29.
女性と男性の能力を高めるために、輸送・交通手段、貯蔵、通信、水、エネルギーなどの社会資本の施設・設備を促進するために活動し、男女が共に、食糧安保に向けてのコミュニティーの経済活動に十分参加できるようにすること。
30.
永続可能な農業の伝統的な知識と実践、種の多様性、食料安保の戦略と技術〔有益な種子と植物など〕を助長させ、そのような知識と実践を保持し、強化する政策を促進する。
31.
達成可能な食料安保政策とその実践措置を特定するために、調査計画、特に直接参加型1
の調査計画を確立する。
32.
食料安保、永続可能な農業と栄養の原則に則って、食料生産者と消費者のための教育と訓練〔特に実地学習〕のプログラムを開発する。
33.
本条約で合意した、またはその他の、様々な食料安保行動を実施するために、農民グループ、環境や開発に関わるNGO、消費者活動、そのほかの関連グループと個人の間に地域的、および地域間のメカニズム〔例:ネットワーク、研究機関、協同組合協定など〕を確立する。
34.
これらの行動のための資金源を特定し、それらの資金源からの助成を求めて積極的に活動する。
35.
食料安保を第一の優先事項とする資金助成プログラムを掲げ、その計画に応じて十分な資金配分を行なう。
36.
地球規模の気象変動、種の多様性の損失、バイオテクノロジー、森林消失(伐採)、土壌の流出、砂漠化、化学薬品(農薬など)の誤用、人口増加、過剰消費などの分野における食料安保への致命的な環境破壊の脅威に対処する努力を支援する。
37.
食料安保が〔特にガットにおいて〕貿易政策の中心課題になるよう主張する。これには、過剰生産とダンピング輸出を禁止する効果的なシステムと関連しているかぎり、食料安保を達成するために輸入を規制する各国および各地域の権利を含む。
38.可能なかぎり自立した永続可能な食料安保システムを達成できる優先事項に対する資金の調達を促進する。
39.
構造調整政策を支持している各国政府と多国籍企業に対して、発展途上国の食糧安保を促進するのではなく、むしろ停止させ悪化させている商品取引も含め、構造調整政策の措置とメカニズムに対する支援を撤回するように要請する。
40.
あらゆる農業において、環境および社会的コストを内部化することにより、永続可能な農業から農民が公正な収入を得るべきだという考え方を促進する。
直接参加型1当該する調査から利益を得る、または影響を受ける可能性のある者の参加を意味する。